『印刷ボーイズ』 シリーズ全3巻 / 奈良裕己(著)
「入稿データというのは、手紙のようなものなんです」と、印刷会社の方に教えてもらったことがあります。それ以来、データを提出する際には、はじめて見る人が迷わないようにする——そんな意識を持つようになりました。
データが印刷物となって手元に届くまでには、多くの人々の手間と工夫、ドラマが詰まっています。『印刷ボーイズ』は、そんな印刷現場の舞台裏を漫画でのぞき見できる全三巻のシリーズです。
ページをめくりながら思わずひやひやしてしまうかもしれませんが、ふだん何気なく手に取っている印刷物が少し愛おしく感じられてくるはず。読み終えるころには、ルーペ越しに紙を眺めたくなっているかもしれません。(相樂)
『「忘れられた日本人」をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』若林恵, 畑中章宏(著)
かれこれ十数年前、『暮しの手帖』編集部時代に「もやい工藝」の故久野恵一氏が執筆する民藝の連載を担当していました。久野氏は、1年の4分の3は全国の無名のつくり手たちを訪ね歩く多忙な人でした。なぜ、そこまでに旅をするのか。その原点は、「宮本先生だ」と言われました。宮本先生とは、民俗学者の宮本常一のこと。久野氏は学生時代に宮本先生に師事し、民俗学的調査を学び、民藝の世界に深く傾倒していくのです。
久野氏の観察力や審美眼に強く影響を受けていたわたしは、自身の原点と言うならばと、一も二もなく“宮本先生”の主著『忘れられた日本人』を手に取りました。
もはや知る人ぞ知る名著になってしまったのではないかと思っていたら、行きつけの本屋で不意に“忘れられた日本人”と再会を果たしました。それが、『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』です。
半世紀近く前に出版された『忘れられた日本人』から、2020年代に何を学ぶのか。編集者・若林恵氏と民俗学者・畑中章宏氏という博覧強記のふたりが、解題していきます。懐古主義的な内容に陥らずに、思考を更新していくのは、このふたりだからこそ、なせる業。
久野氏の調査旅行に同行させてもらった日のことが鮮明に蘇ります。(矢野)
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